言葉がつくる子どもの未来

 

ある日、小学3年生の生徒が私のもとへやってきて、こう言いました。
「僕は読解力がないので国語ができません。」

まだ9歳前後の子供が、自分の能力を「読解力」という専門的な言葉で表現したことに、私は少し驚かされました。

おそらく、その言葉は生徒自身の中から自然に湧き出たものではなく、日頃から接している保護者の方や周囲の大人が口にしている言葉をそのまま受け取ったものなのでしょう

周囲の言葉が子供を作る

小学校低学年の子供にとって、親をはじめとする身近な大人の影響力は非常に大きいものです。

大人が何気なく放つ
「この子は…だね」
という断定的な言葉は、私たちの思う以上に子供の心に深く根を下ろします。

保護者の方だけでなく、子供を取り巻くすべての人が、自分たちの意識や言葉が子供を育てているのだという事実を自覚しておかなければなりません

大人の意識次第で、子供は良くも悪くも変わります。

もしその言葉が、子供の可能性を信じ、未来を伸ばすための前向きなものであれば、それは素晴らしい成長の糧となります。

しかし、その逆はどうでしょうか。

「この子は能力がない」
といった否定的な言葉は、子供の心にブレーキをかけ、本来持っている可能性を摘み取ってしまうことになりかねません。

だからこそ、私たちは否定的な断定を口にすることを、厳に慎まなければならないのです。

ピグマリオン効果という教訓

かつて教育界では、「ピグマリオン効果」という言葉が盛んに唱えられた時期がありました。
これは、ある心理的な実験結果に基づいた考え方です

その実験では、ある学校の生徒を2つのクラスに分けて授業を行いました。

その際、権威のある先生が担当教師に対して「1組はあまり伸びないが、2組は成績が良くなる」と告げました。

すると、実際には生徒たちの能力に差がなかったにもかかわらず、数ヶ月後には宣告された通りの結果になってしまったのです。

この結果は、指導する側が抱く「期待」や「先入観」が、相手の成長を大きく左右することを如実に物語っています。

この効果を意識すると、教育や子育てにおいて「君はこれができない」と決めつけるような発言が、いかに危ういものであるかがわかります。

もちろん、改善すべき点を指摘してはいけないということではありません。

テスト前などに「こういうところは間違いやすいから、注意しようね」と、具体的な注意喚起をすることは子供の助けになります。

しかし、「君はこれができないんだよね」といった、その子の人格や能力そのものを否定するようなマイナスの言葉は、決して口にしてはならないのです。

神話から学ふ「期待」の力

「ピグマリオン効果」というのは、ギリシャ神話に登場する彫刻家の名前に由来しています。

昔、ピグマリオンという名の彫刻家がいました。

彼は自らの手で一人の女性像を彫り上げましたが、その出来栄えはあまりに美しく、彼はいつしか自分の作品の女性像に心を奪われてしまいました。

彼はその女性像を本物の人間のように愛し、いつか命を宿してほしいと切実に願い続けました。

その一途な想いに心を打たれた神様は、彼の願いを哀れに思い、冷たい彫刻に生命を吹き込んでくれました。

こうしてピグマリオンは、人間となった女性と結ばれ、幸せに暮らしたといいます。

この美しい神話には、「心から相手に期待を寄せれば、相手はその期待に応えてくれる」という教えが含まれています。

また、「相手に対する肯定的な期待が、相手に良い影響を与える」という心理的メカニズムの象徴でもあります

肯定の言葉で未来を描く

私たちは、子供が何かを成し遂げたときには「できたね」と素直に認め、その喜びを共有することが大切です。

子供の欠点を探して否定的な言葉を浴びせるのではなく、常に「ピグマリオン効果」を意識し、前向きな眼差しを向けることが求められます。

子供は、鏡のように周りの大人の意識を映し出します。

もし子供が「自分には力がない」と思い込んでいるのなら、それは私たち大人がそのような言葉を届けてしまった結果かもしれません。

今日から、否定的な言葉を一度飲み込み、子供の可能性を信じる温かな言葉を届けていきませんか。

大人が抱く「信じる力」こそが、子供たちが自分の翼を広げて羽ばたくための、一番の原動力になるはずです。